Ambrosisch

2026-05-16

グリシンとテアニンは睡眠サプリとして効くのか

機序の異なる 2 つのアミノ酸サプリ。それぞれのヒト試験を読み解き、軽度の睡眠不満に対する位置づけと限界を整理します。

白とグレーのリネンで整えられた寝室のベッド
Photo by Quin Stevenson on Unsplash

結論 — 機序が違う 2 つの選択肢、軽度の睡眠不満に穏やかな改善

結論から述べると、グリシン (就寝前 3 g)L-テアニン (200〜400 mg/日) は、いずれも軽度の睡眠不満に対して穏やかな改善を示すヒト試験があり、夜の負担を軽くする選択肢になります[Yamadera W 2007][Hidese S 2019][Bulman A 2025]。一方、慢性的な不眠症 (DSM/ICSD 基準を満たすような長期不眠) に対しては効果が確認されていない報告もあり、診断のある不眠の根本治療ではない点を踏まえて使う必要があります。

機序と適応はそれぞれ異なります。グリシン は深部体温の降下を介して入眠を促す方向で、寝つきや徐波睡眠の指標で変化が報告されています。テアニン は緊張・覚醒度を下げる方向で、就寝前のリラックスや主観的な睡眠の質に効きやすい、というのが現時点で読み解ける研究の到達点です。

理由 — 異なる経路で「眠りに入りやすい状態」を作る

こう言える理由は、グリシンとテアニンの作用機序がそれぞれ独立したヒト試験で示されており、両者が「同じ効果を別のルートで出す」のではなく、異なる経路で睡眠導入を助ける 成分として整理できるからです。

  • グリシン は最も小さなアミノ酸で、視床下部・視交叉上核 (SCN) の NMDA 受容体に作用し、末梢血管拡張を介して 深部体温を下げる ことが動物実験で示されています。深部体温の低下は、自然な入眠の生理学的シグナルの一つです。
  • L-テアニン は緑茶に含まれるアミノ酸で、GABA 系・グルタミン酸系・ドーパミン系などに作用すると考えられ、覚醒度を下げて リラックス状態 を作る方向で働きます。脳波 (EEG) で α 波増加が報告されており、これは「目は開いているがリラックスしている」状態の指標です。

機序が違うため、効きやすい場面も異なります。「布団に入っても考え事で眠れない」場合はテアニン、「寝つきが悪く深い眠りが浅い気がする」場合はグリシン、というのが大まかな目安になります。

エビデンス (1) — グリシンの PSG 試験

具体的なヒト試験を見ていきます。グリシンで最も引用される研究が、Yamadera らによる 2007 年 Sleep and Biological Rhythms の単盲検クロスオーバー RCT です[Yamadera W 2007]

  • 睡眠に不満を持つ健康人を対象に、就寝前 3 g のグリシン またはプラセボを摂取。
  • 翌朝までの 睡眠ポリグラフ (PSG) を記録し、主観的な睡眠の質も評価。

報告された結果は次のとおりです。

  • 入眠潜時 (寝つくまでの時間) が有意に短縮 しました。
  • 徐波睡眠 (slow wave sleep) への到達までの時間も短縮 しました。
  • 主観的な睡眠の質と睡眠効率 (実睡眠時間 / 床上時間) が改善しました。
  • 翌日の眠気が軽減し、記憶課題のパフォーマンスも改善 が観察されました。

睡眠アーキテクチャ (各段階の比率) には変化が見えず、ベンゾジアゼピン系睡眠薬とは異なる作用様式である、と著者らは結論しています。

加えて、Bannai らによる 2012 年 Frontiers in Neurology のクロスオーバー試験は、睡眠時間を部分的に制限した状況 で就寝前 3 g のグリシンを摂取すると、翌日の眠気・疲労感の自覚的改善とサイコモーターパフォーマンスの改善が見られたと報告しています[Bannai M 2012]。短期の睡眠負債が生じている局面での補助的な使い方として、機序と整合する観察結果です。

エビデンス (2) — テアニンの最新メタアナリシス

L-テアニンについては、Hidese らによる 2019 年 Nutrients の RCT が、健康成人に 200 mg/日を 4 週間 摂取することで入眠潜時と日中機能の改善を報告しています[Hidese S 2019]。日本国内では機能性表示食品としてもこの用量が採用されており、本サイトでも睡眠トピックで紹介してきた成分です。

さらに最新の整理として、Bulman らによる 2025 年 Sleep Medicine Reviews の系統的レビュー・メタアナリシスがあります[Bulman A 2025]

  • 18 件の RCT、合計 897 名 のデータを統合解析。
  • 主観的入眠潜時、日中機能、主観的な睡眠質スコアで有意な改善 を確認。
  • 一方、客観的な睡眠指標 (PSG など) では有意な改善は確認されませんでした
  • 不眠症のサブグループ (n=18) では、効果が見えていません (ただしサンプルが極めて小さい)。

ここから読み取れるのは、「テアニンは 主観的な体感 を変える方向で効きやすく、客観指標を大きく動かす成分ではない」 ということです。そして、不眠症と診断されているような重い不眠に対しては、追加のエビデンスが必要な段階です。

何が言えて、何がまだ言えないか

ここまでのエビデンスを整理します。

主張現時点のエビデンス
「グリシン 3 g で寝つきが良くなる」健康人の軽度睡眠不満で支持。PSG で入眠潜時短縮を確認 (Yamadera 2007)。
「テアニンで主観的な睡眠質が改善する」支持。18 RCT 897 名のメタアナリシスで主観指標の改善を報告 (Bulman 2025)。
「テアニンで PSG 上の客観指標も改善する」支持されない。同メタアナリシスでは客観指標に有意差なし。
「グリシンやテアニンが不眠症を治す」支持されない。不眠症集団でのエビデンスは限定的。
「依存性・離脱症状がある」報告されていない。ベンゾジアゼピン系薬剤とは異なる作用機序です。
「長期 (1 年超) 安全性が確立している」データは限定的。短期試験中心。

使い分けと注意点

実用面では、次のような目安で使い分けると、機序と整合した取り入れ方になります。

  • グリシン: 就寝前 3 g をぬるま湯やお茶に溶かして摂取。寝つきが悪い・深い眠りに入りにくいと感じる場合に試す。粉末タイプが一般的で、わずかな甘味があります。
  • テアニン: 就寝前 30 分〜 1 時間に 200 mg。緊張やソワソワで眠りにくい場合、または就寝前のリラックス目的に。日中の集中時に少量摂る使い方も提案されています。
  • 両者の併用: 機序が異なるため、機序的には併用も矛盾しません。ただし、まずは片方を 2〜4 週間試して効果を見て、必要に応じて追加する流れが、効果と費用を見極めやすい順番です。

注意点:

  • 不眠が 1 か月以上続く、日中の機能に影響している場合は医療機関へ。サプリで様子を見るより、CBT-I (不眠症の認知行動療法) や医師の評価を優先するのが安全です。
  • 妊娠・授乳中、薬剤を服用している場合は使用前に医師・薬剤師に相談。特に向精神薬・抗うつ薬を服用中の方は、自己判断での追加を避けてください。
  • 腎機能・肝機能に問題がある方 は、アミノ酸負荷について主治医に確認してください。
  • 「効かない」と感じたら見直す: 2〜4 週間試して変化を感じない場合、原因は別 (光環境、カフェイン、ストレス、シフトワークなど) の可能性が高く、サプリの増量より生活習慣の見直しが優先です。

結論 (再) — 軽度の睡眠不満に「機序と適応で選ぶ」

以上から、グリシンと L-テアニンは、

  • 軽度の睡眠不満に対して、それぞれ機序の異なる経路で穏やかな改善を示すヒト試験がある
  • 一方、慢性不眠症の根本治療 ではなく、診断のある不眠には医療機関での評価が優先
  • 客観指標 (PSG) よりも主観的な体感 を変えやすい成分群、特にテアニンはその傾向が明確
  • 機序が違うため使い分けが可能で、両者の併用も矛盾しない

という整理に落ち着きます。期待を「軽度の睡眠不満を穏やかに支える」程度に設定したうえで、まず 2〜4 週間試して変化を見る、というのが現時点のエビデンスと整合する使い方です。

国内で買える L-テアニン製品

国内で安定供給されており、研究で使われた L-テアニン 200 mg/日 の用量を満たす機能性表示食品の例です。

アサヒグループ食品 · サプリメント
ネナイト
錠剤 (機能性表示食品)
L-テアニン 200 mg / 4 粒 (1 日量)

L-テアニンは、健常成人を対象とした小規模 RCT で、200 mg/日を 4 週間摂取することで入眠潜時 (寝つきの良さ) と日中機能の改善が報告されている。本製品は機能性表示食品として消費者庁に届出されており、起床時の疲労感・眠気を軽減する旨を訴求している。

利点
  • 国内流通の機能性表示食品で安定供給
  • L-テアニンの研究での有効用量 (200 mg/日) を満たす
  • 刺激性が低く、薬剤依存のリスクが低い
懸念点
  • 睡眠の質・持続・効率自体は変えない可能性
  • 効果は穏やかで、慢性不眠の根本治療にはならない
注意事項
  • · 妊娠・授乳中、内服薬使用中は医師相談を推奨
  • · 不眠が長引く場合は CBT-I や医療機関の評価を優先する
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このページで引用している論文

  1. Yamadera W, Inagawa K, Chiba S, Bannai M, Takahashi M, Nakayama K (2007). Glycine ingestion improves subjective sleep quality in human volunteers, correlating with polysomnographic changes. Sleep and Biological Rhythms, 5(2), 126-131. doi:10.1111/j.1479-8425.2007.00262.x
    RCT (ランダム化比較試験)根拠:
  2. Bannai M, Kawai N, Ono K, Nakahara K, Murakami N (2012). The effects of glycine on subjective daytime performance in partially sleep-restricted healthy volunteers. Frontiers in Neurology, 3, 61. doi:10.3389/fneur.2012.00061
    RCT (ランダム化比較試験)根拠:
  3. Hidese S, Ogawa S, Ota M, et al. (2019). Effects of L-theanine administration on stress-related symptoms and cognitive functions in healthy adults: a randomized controlled trial. Nutrients, 11(10), 2362. doi:10.3390/nu11102362
    RCT (ランダム化比較試験)根拠:
  4. Bulman A, D'Cunha NM, Marx W, Turner M, McKune A, Naumovski N (2025). The effects of L-theanine consumption on sleep outcomes: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews, 81, 102076. doi:10.1016/j.smrv.2025.102076
    メタアナリシス根拠: