2026-05-14
ヤーバサンタは白髪を黒髪に戻すのか
白髪を黒髪に戻すと言われる「ヤーバサンタ」。2 種の近縁植物 (E. angustifolium と E. californicum) で働きが違うという重要な区別と、Taguchi 2018 / 2020 の初期のヒト試験を、効くしくみ (WNT / MITF / tyrosinase 経路) から読み解きます。

結論 — 種を選んで継続的に評価する成分
結論から述べると、「ヤーバサンタ」と呼ばれる植物のうち、白髪改善の初期エビデンスが報告されているのは Eriodictyon angustifolium のみで、もう一方の Eriodictyon californicum には同じ作用が in vitro でも見られていません[Taguchi N 2018][Taguchi N 2020]。製品を選ぶ際は「ヤーバサンタ」とだけ書かれた表記ではなく、学名 (Eriodictyon angustifolium) が表示成分に明記されているか を確認するのが、現在の研究結果と整合する選び方です。
報告されている変化は 10 名 24 週のオープンラベル試験で白髪率が約 3.4% 減少する、という穏やかな水準にとどまります。「黒髪に戻るハーブ」と言い切るにはまだエビデンスが揃っていない一方、種を選んで継続的に評価する価値のある成分、というのが 2026 年時点の落ち着いた読み方です。
理由 — 2 種類の植物で研究結果が分かれている
こう言える理由は、化粧品メーカーである ホーユー株式会社の研究グループ と、メラノサイト (色素を作る細胞) や色素幹細胞の発生生物学を専門とする 岐阜大学大学院医学系研究科 (組織・器官形成分野) の Kunisada 研究室 による産学共同研究が、「ヤーバサンタ」と俗称される 2 種の近縁植物を実験で区別して比較し、種ごとに働きがあるかないかを示しているからです。
「ヤーバサンタ (Yerba Santa)」は、北米南西部に自生する低木の俗称で、少なくとも次の 2 種類が含まれます。
- Eriodictyon californicum: カリフォルニア州中心に分布。伝統的に呼吸器の不調に使われてきた種。
- Eriodictyon angustifolium: アリゾナ・ニューメキシコなどに分布する近縁種。葉が細い (狭葉)。
両種は英語圏でいずれも「yerba santa」と呼ばれ、日本語の紹介でも「ヤーバサンタ」と一括りにされやすいのですが、後述する一連の研究が示しているのは、種が違えば培養細胞での働きも違う、という点です。新しい天然物の候補がどのように働くかを、in vitro (試験管内) の解明 → ヒトでの初期試験へと段階的に積み上げてきた、産学連携の典型例といえる仕事です。
効くしくみ — ステルビンと WNT/MITF/tyrosinase 経路
具体的には、E. angustifolium に豊富に含まれるフラボノイドの 1 つに ステルビン (sterubin) があります。化学構造の B 環に水酸基 (OH) が 2 つ並ぶフラバノン類で、抗酸化・抗炎症・神経保護の働きが独立した研究グループからも報告されており、ここ数年で注目度が高まっている成分です。
Taguchi らは 2 段階でしくみを示しました。
- 2018 年: ヒトメラノーマ細胞株 (HMVII) を用いた in vitro 実験で、合成したステルビンが WNT シグナル経路を通じてメラニン (色素) の生成を促す ことを示した[Taguchi N 2018]。
- 2020 年: 別のメラノーマ細胞 (B16-F10) でエキスとしての働きを 2 種で比べ、E. angustifolium のエキスだけが WNT / MITF / tyrosinase 経路を活性化し、メラニン生成を有意に増やした[Taguchi N 2020]。E. californicum のエキスでは同じ条件で変化が見られず、成分の中身としてもステルビンの量が少なかった。
「ヤーバサンタ」と呼ばれていても、種が違えばフラボノイドの組み合わせが異なり、培養細胞での働きも違う — この種ごとの差を実験で切り分けた点が、Taguchi らの研究の中心の貢献です。マーケティングでは「ヤーバサンタ」で一括りにされやすい中で、サイエンスとしては種を区別すべき根拠が提示されました。
2018 年 — 1 名の症例で仮説を試した Letter
ヒトでの最初の報告は、Taguchi らによる Journal of Dermatological Science の Letter 形式の短い報告です[Taguchi N 2018]。
- 1 名の被験者の白い髭毛に、0.1% ステルビン溶液を 4 週間 塗布。
- 塗布した部分で 色素 (メラニン) の生成の回復 が観察された。
- 上記の in vitro のしくみとヒトでの観察が合っている、と著者らは結論。
Letter は本来「短い報告」として、しくみの面でもっともらしい仮説をヒトで最初に試してみるための形式です。1 名の症例だけでは自然な変動や観察の偏りを排除しきれないため、結論ではなく「仮説が妥当そうか確かめる段階」として位置づけられます。
2020 年 — 10 名 24 週のオープンラベル試験
続いて Taguchi らは 2020 年に International Journal of Cosmetic Science で、対象を頭皮に拡張した試験を報告しました[Taguchi N 2020]。
- E. angustifolium エキスを、10 名の頭皮に 1 日 2 回・24 週間 塗布。
- 10 名のうち 8 名で白髪率の減少 が観察された。
- 平均的な白髪率の変化は、塗布開始から 4 週で 0.7%、12 週で 1.3%、24 週で 3.4% の段階的な減少。
- 比較対象として E. californicum エキスではこの変化が見えなかった。
n=1 → n=10 と段階を上げ、加えて 2 種の比較で因果の方向を補強した、自然な発展型の試験設計です。一方、医療・健康の評価で標準となる試験 (盲検化対照試験) と比べると、まだ進めるべき段階が残されています。
- いずれもオープンラベルで、対照群を置いた盲検化試験には至っていません。
- サンプルサイズは 1 名 → 10 名と増えましたが、現時点ではまだ小規模です。
- 研究は産学共同で行われており、新しい成分の初期試験として自然な構造ですが、有効性を最終的に確定するには独立した第三者機関による検証が今後望まれる段階です。
- 著者らも追跡研究 (経口摂取の動物モデル、長期に塗ったときの毛の太さの変化など) を続けて報告しており、エビデンスは現在進行形で積み上がっています。
つまり「現時点で観察されている変化は穏やかなもので、より厳しい設計で確認する段階が続いている」と読むのが妥当です。
「白髪になった毛がすべて黒く戻る」とは限らない理由
加えて、体のしくみとして、ステルビンの働きがヒトで成立する場合でも、すべての白髪が同じように反応するわけではない、という点も押さえておく必要があります。
毛の色を決めるのは、毛包の根元にあるメラノサイトと、それを供給するメラノサイト幹細胞です。加齢で自然に出てくる白髪では、これらの細胞が 働きが弱まっている 段階と、もう枯れてしまっている 段階があります。
- 働きが 弱まっている だけのメラノサイト幹細胞は、信号で刺激すると色素を作る働きが戻る可能性があると、in vitro と動物モデルから示されています。
- 一方、幹細胞が もう枯れてしまっている 部位では、メラニンを作り直す細胞そのものが存在しないため、原理的に色素を作るのは難しいと考えられます。
「白髪のうちどの割合が幹細胞の枯渇によるものか」が、得られる効果の上限を決めることになります。これは個人差が大きく、現状の試験ではほとんど評価されていません。
何が言えて、何がまだ言えないか
ここまでのエビデンスを表に整理すると、次のようになります。
| 主張 | 現時点のエビデンス |
|---|---|
| 「ヤーバサンタ全般が白髪に効く」 | 種を区別する必要があります。E. californicum では in vitro で効果が見えませんでした。 |
| 「E. angustifolium のステルビンがメラニン生成を促す」 | in vitro と初期のヒト試験で支持。効くしくみの候補は WNT/MITF/tyrosinase 経路。 |
| 「24 週で白髪が劇的に黒くなる」 | 報告された範囲を超えた言い過ぎ。観察された変化は 24 週で約 3.4% にとどまります。 |
| 「加齢で白くなった髪が必ず元に戻る」 | 体のしくみの上で難しい場合があります。メラノサイト幹細胞が枯れた部位では原理的に困難です。 |
| 「ステルビンに副作用がない」 | 長期データは未確立。妊娠・授乳中のデータも限定的です。 |
結論 (再) — 実用的にどう付き合うか
以上を踏まえると、実用上は次の 4 点に整理できます。
- 製品ラベルの種を確認する: 「ヤーバサンタ」とだけ書かれた表記ではなく、学名 (Eriodictyon angustifolium) が表示成分まで記載されているかを確認します。研究で働きが示されたのは、この種に豊富なフラボノイドの組み合わせです。
- 期待値を実測値に合わせる: 報告されている変化は 24 週で約 3.4% の白髪率減少で、まだ対照群を置いた検証の前段階です。穏やかな改善を続けて評価する、というのが合った付き合い方になります。
- 基本の習慣を併せる: 白髪のしくみは色々な要因が関わり、酸化ストレス・栄養 (鉄・銅・ビタミン B12)・甲状腺の働き・遺伝が関わります。極端な食事制限を避け、年 1 回の血液検査で不足を確認することが、ローションの前にまず置きたい習慣です。
- 長期の安全性は積み上げの途中: 頭皮塗布での 24 週試験を超える長期データはまだ蓄積中です。皮膚のかぶれや接触皮膚炎が出た場合は使用を中止し、必要に応じて皮膚科に相談してください。
「黒髪に戻るハーブ」と断言できるエビデンスはまだ揃っていないものの、「種を選んで続けて評価する価値のある成分」と位置づけるのが、2026 年時点の落ち着いた読み方です。
学名が明記された製品で試したい場合
初期段階のエビデンスを踏まえた上で実際に試してみたい場合、学名 (Eriodictyon angustifolium) が表示成分に明記されている 製品を選ぶのが、本記事の趣旨と整合する選び方です。Taguchi らの研究で用いられたのと同じ種のエキスを配合した、国内で買える代表的な選択肢です。
ヤーバサンタ (E. angustifolium) の頭皮エキス塗布は、10 名 24 週間のオープンラベル試験で白髪率の段階的減少 (4 / 12 / 24 週で約 0.7 / 1.3 / 3.4%) が報告されている。本製品は同じ Eriodictyon angustifolium 葉/茎エキスを配合した化粧品。製品自体の独立 RCT は公開されていない。
- 学名 Eriodictyon angustifolium を明記し、E. californicum と区別している
- 化粧品扱いで、Amazon・公式通販で入手しやすい
- 毎日 2 回・継続塗布の使用設計が研究のプロトコルと整合
- 化粧品分類のため、効能効果の表示が制限されている
- ヤーバサンタの白髪改善は予備的エビデンス (小規模・対照群なし) 段階
- 幹細胞が枯渇している部位では原理的に効果は望めない
- · 頭皮に湿疹・かぶれ・傷がある場合は使用しない
- · ラベンダー油など精油成分にアレルギーがある場合は使用前にパッチテストを行う
- · 効果は穏やかで、評価には少なくとも 3 か月以上の継続が必要
このページで引用している論文
- Taguchi N, Hata T, Kamiya E, Kobayashi A, Aoki H, Kunisada T (2018). Reduction in human hair graying by sterubin, an active flavonoid of Eriodictyon angustifolium. Journal of Dermatological Science, 92(3), 286-289. doi:10.1016/j.jdermsci.2018.11.002根拠: 予備的
- Taguchi N, Hata T, Kamiya E, Homma T, Kobayashi A, Aoki H, Kunisada T (2020). Eriodictyon angustifolium extract, but not Eriodictyon californicum extract, reduces human hair greying. International Journal of Cosmetic Science, 42(4). doi:10.1111/ics.12620根拠: 予備的