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酸化ストレス — 活性酸素 (ROS) と老化

ミトコンドリア・紫外線・タバコの煙などから生じる活性酸素 (ROS) が、DNA・タンパク質・脂質を酸化的に傷つけ、老化のいくつかのしくみに関わります。日焼け止めや運動で、体が持つ抗酸化のしくみを強くするのが対策の中心です。[López-Otín C 2013][Bjelakovic G 2007]

最終更新: 2026-05-18

蛍光染色された細胞の顕微鏡画像
Photo by National Cancer Institute on Unsplash

酸化とは何か — 身の回りの例から

まず「酸化」という言葉から始めます。酸化とは、化学の言葉では、ある物質が 電子を奪われる反応 のことです。難しく聞こえますが、身の回りにたくさんあります。

  • 切ったリンゴが茶色くなる — リンゴの中の成分が空気中の酸素と反応して色が変わる
  • 鉄が錆びる — 鉄が酸素と結びついて錆びになる
  • 油が古くなって嫌な匂いになる — 油の中の脂肪酸が酸化される

どれも、酸素 (または酸素からできた分子) が他の物質から電子を奪い、もとの物質が傷ついたり性質が変わったりしています。

実は、私たちの体の中でも、これと同じ反応が毎日起きています。

体の中の酸化 — 活性酸素 (ROS) という言葉

このセクションでは、体の中で起きる酸化を見ます。私たちは呼吸で酸素を取り込み、細胞の中の発電所 (ミトコンドリア) でエネルギーを作っています。このとき、いわば「燃えかす」として 活性酸素 (ROSROSReactive Oxygen Species活性酸素種。細胞が代謝活動をするときに自然にできる、反応性の高い分子。多すぎると DNA や脂質を傷つけるが、少量はシグナル分子としても働くため、単純に「悪玉」とは言えない。: Reactive Oxygen Species) が少しだけ生まれます。

ROS は反応しやすい性質を持ち、DNA・タンパク質・あぶら (脂質) などにくっついて、これらをサビさせるように傷つけます。量が少なければ、体が直すほうが追いつきます。ですが量が多すぎると、修理が間に合わず、傷が積み重なっていきます。この 「ROS の発生量が、体の処理できる量を超えた状態」 を、酸化ストレス と呼びます。

ROS はどこから生まれるのか

このセクションでは、ROS がどこから来るのかを整理します。発生源は、体の 内側外側 の両方にあります。

体の内側

  • ミトコンドリア: エネルギーを作るときの燃えかすとして、少量の ROS が出る (最大の発生源)
  • 免疫細胞: 細菌やウイルスと戦うとき、武器として ROS を作る
  • 酵素の反応: 一部の酵素が、反応のついでに ROS を作る

体の外側からの入力

  • 紫外線 (UV-A・UV-B): 肌に当たると、その場で大量の ROS を出す
  • タバコの煙: ひと吸いで、とても多くの ROS とサビのもとが肺に入る
  • 大気汚染 (PM2.5、排気ガス): 呼吸を通じて入り、ROS のもとになる
  • 高温で焦がした食事 (揚げ物・焦げ目): 食事から入るサビの負担を増やす

こうした入力が毎日重なって、体全体の酸化ストレスの高さが決まります。

体には抗酸化のしくみがある

ROS が出るのは避けられません。そこで体は、それを 打ち消すしくみ を最初から備えています。大きく 2 つの系統があります。

体内で作る抗酸化酵素 (酵素系)

  • SOD (スーパーオキシドジスムターゼ): 最も反応しやすい ROS を、より穏やかな過酸化水素に変える
  • カタラーゼ: 過酸化水素を、水と酸素に分解する
  • グルタチオン系: 細胞の中の主役となるサビ止めの仕組み。傷んだタンパク質やあぶらを直す

これらは体内で作られる「内側のサビ止め」です。

食事から摂る抗酸化成分 (非酵素系)

  • ビタミン C・E (柑橘類・ナッツなど)
  • カロテノイド (にんじん・トマトのリコピン・ほうれん草)
  • ポリフェノール (ベリー・お茶・赤ワイン・カカオ)

これらは外から摂る「外側のサビ止め」です。いろいろな成分が組み合わさって、互いに補い合って働くと考えられています。

酸化が老化にどう関わるか

ここまでの酸化ストレスが、老化にどうつながるかを見ます。ROS による傷は、老化のさまざまな現象に関わります。代表例です。

  • : 紫外線による ROS が、肌のハリを支えるコラーゲンやエラスチンを傷つけ、シワ・たるみ・シミにつながる (光老化)
  • 血管: LDL コレステロールが酸化されて「酸化 LDL」になり、動脈が硬くなるのを進める
  • 脳・神経: ROS による傷が、認知機能の低下に関わる
  • ミトコンドリア: ROS で発電所自身も傷つき、エネルギー作りがさらに落ちる、という悪循環が生じる
  • DNA: 酸化による DNA の傷が、がんや細胞の老化の原因になる

学術的には、酸化による傷は、López-Otín らが整理した老化のハルマークハルマークhallmarks of aging「特徴」「指標」という意味。López-Otín らが提唱した老化研究の枠組みで、老化に共通して見られる細胞・分子レベルの変化を整理した分類。2013 年版は 9 つ、2023 年版は 12 のハルマークが提示されている。 (老化の特徴のリスト) のうち、遺伝情報の不安定さ・タンパク質の質の低下・ミトコンドリアの不調といった複数の項目に関わるとされます[López-Otín C 2013]

ROS は悪者だけではない (ホルメシス)

最後に、大事な見方を 1 つ添えます。ROS は、ただの悪役ではありません。

運動すると、ミトコンドリアから出る ROS は一時的に 増えます。ところが、この短い増加が サビ止めの酵素 (SOD・カタラーゼなど) の働きを呼び起こす合図 になります。その結果、長い目で見ると、体のサビ止めの仕組みが強くなる、という現象が観察されています。これをホルメシスホルメシス「ほどよい負荷」が体の防御の働きを呼び覚まし、結果として耐性が上がる現象。例: 運動で生じる軽い酸化ストレスが抗酸化酵素の働きを高める。サウナの熱や軽い断食も同じ仕組み。と呼びます。

つまり、目指すのは「ROS をゼロにする」ことではありません。害になる負担 (紫外線・タバコ・大気汚染) を減らしつつ、ほどよい負担 (運動) で体のサビ止めを鍛える。これが、体全体として理にかなった方向です。

関連トピック

LEVEL 1 以降では、酸化ストレスへの具体的な取り組みを扱っています。

References

  1. López-Otín C, Blasco MA, Partridge L, Serrano M, Kroemer G (2013). The hallmarks of aging. Cell, 153(6), 1194-1217. doi:10.1016/j.cell.2013.05.039
    総説根拠:
  2. Bjelakovic G, Nikolova D, Gluud LL, Simonetti RG, Gluud C (2007). Mortality in randomized trials of antioxidant supplements for primary and secondary prevention: systematic review and meta-analysis. JAMA, 297(8), 842-857. doi:10.1001/jama.297.8.842
    メタアナリシス根拠:

よくある質問

Q. 活性酸素 (ROS) と酸化ストレスは同じものですか?
A. 活性酸素 (ROS) は体内で生まれる「反応性の高い酸素由来の分子」のことです。酸化ストレスは「ROS の発生量が、体の抗酸化のしくみで処理しきれない量を超えた状態」を指します。ROS は普段から少量発生しており、それ自体が悪ではありません。
Q. 酸化ストレスはどうやって測定できますか?
A. 血液検査としては、酸化 LDL や 8-OHdG (DNA の酸化ダメージの目印) などがありますが、健康な人が日常的に測る検査にはなっていません。研究の現場で使われる指標で、健康診断のルーチンには入っていない段階です。
Q. 「活性酸素」と「フリーラジカル」は同じですか?
A. ほぼ同じ意味で使われることが多いですが、厳密には少し違います。フリーラジカルは「対になっていない電子を持つ分子」、活性酸素 (ROS) は「反応性の高い酸素由来の分子」で、両者は大部分が重なります。一般向けの解説では同じ意味で扱われることが多くなっています。

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