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慢性炎症 (inflammaging) — 静かに続く弱い炎症

加齢に伴って起きる、症状が出にくい弱い炎症が長年続いている状態を inflammaging と呼びます。López-Otín 2023 では 12 のハルマーク (老化の特徴) の 1 つに含まれており、地中海食・運動・睡眠・腸内環境ケアなどが、この炎症を抑える主な対策です。[Franceschi C 2018][López-Otín C 2023]

最終更新: 2026-05-18

暗い背景に揺らぐ炎の光
Photo by Cullan Smith on Unsplash

炎症とは何か — 急性と慢性

「炎症」と聞くと体に悪いものと思いがちですが、本当はケガや感染から体を守る大切な働きです。ここでは、その良い炎症と、老化に関わる困った炎症の違いを説明します。

捻挫や切り傷をすると、その場所が赤くなり、腫れ、熱を持ち、痛むことがあります。これは、免疫の細胞がその場に集まって、傷ついた場所を直し、入り込んだ細菌をやっつけているサインです。いわば味方の反応で、ふつうは数日から数週間で収まります。これを 急性炎症 と呼びます。

困るのは、この反応が収まらずに、弱いまま何年も続いてしまう状態です。症状がほとんど出ないので気づきにくいのですが、体の中では血管・脳・関節などに少しずつダメージがたまっていきます。これを 慢性炎症 と呼びます。年をとってから増える多くの病気の土台になっていることが、近年分かってきました。

inflammaging — 加齢に伴う慢性炎症

年をとるにつれて起きる、弱くて長く続く炎症には、専用の呼び名があります。ここでは、その名前と、なぜ大事なのかを説明します。

このタイプの炎症を、とくに inflammaginginflammaging慢性炎症 + 加齢加齢に伴って起きる、症状が出にくい弱い炎症が長年続いている状態。心血管疾患・認知症・がんなど、年齢とともに増える病気の共通の土台として注目されている。 と呼びます。「炎症 (inflammation) + 加齢 (aging)」を合わせた造語で、Franceschi らが提唱しました[Franceschi C 2018]

inflammaging はほとんど症状が出ない代わりに、次のような病気の共通の土台になっていると報告されています。

  • 心臓や血管の病気 (動脈硬化・心筋梗塞・脳卒中)
  • 認知症 (アルツハイマー病など)
  • がん
  • 2 型糖尿病
  • サルコペニア (筋肉が減ること)
  • 慢性腎臓病

いずれも、年をとると増える病気です。López-Otín らが整理した老化のハルマークハルマークhallmarks of aging「特徴」「指標」という意味。López-Otín らが提唱した老化研究の枠組みで、老化に共通して見られる細胞・分子レベルの変化を整理した分類。2013 年版は 9 つ、2023 年版は 12 のハルマークが提示されている。 (老化に共通して見られる特徴) では、2023 年版で「慢性炎症」が 12 の項目の 1 つに正式に加わりました[López-Otín C 2023]

なぜ年齢とともに炎症が増えるのか

炎症が長引く原因は、体の外からの刺激と、体の中から生まれる刺激の両方にあります。ここでは、その両方を見ます。

外から来る刺激

  • 長く続く感染: 歯周病や、ヘルペスの仲間のウイルス (HSV, EBV, CMV など) が体に長くいすわること
  • 大気汚染・喫煙: 呼吸を通して入ってくる、炎症を起こす物質
  • 食べすぎ・こげた食品の摂りすぎ (高 AGEs): 食事から入る炎症の刺激

体内から生まれる刺激

  • 老化細胞 (senescent cells): 年とともに増える、分裂は止まったのに死なずに残る細胞。SASP (老化細胞が出す分泌物) と呼ばれる、炎症を起こす物質を周りにまき散らす
  • ミトコンドリアの劣化: 細胞の中でエネルギーを作る部品 (ミトコンドリア) が傷み、その中身が漏れ出ると、免疫が「異物」と勘違いする
  • 腸内環境の乱れ (dysbiosis): 腸内細菌のバランスが崩れて腸の壁が弱くなり、本来は体内に入らないはずの物質が入り込む

こうした刺激が毎日少しずつ免疫を刺激し続けます。その結果、CRP・IL-6・TNF-α といった、炎症を起こす物質がいつも少し高い状態になります。これが inflammaging です。

慢性炎症が老化に関わるしくみ

慢性炎症は、単独で進むのではありません。ここでは、酸化と糖化という他の 2 つのしくみと絡み合っていることを見ます。

慢性炎症は、酸化ストレス糖化 と互いに強め合います。

  • 炎症の細胞は ROS (活性酸素) を作り、酸化ストレスを増やす
  • AGEs (糖と結びついて変質した物質) は RAGE 受容体RAGE 受容体Receptor for Advanced Glycation End Products細胞の表面にある受け取り役の 1 つで、AGEs などが結合すると、細胞の中に「炎症を起こせ」という指示を伝える。糖化と炎症をつなぐ橋渡しの役割を持つ。 を通じて炎症のスイッチ (NF-κB) を入れ、糖化が炎症を増やす[Goldin A 2006]
  • 炎症を起こす物質はミトコンドリアの働きをじゃまし、さらに ROS が増える

このように、酸化・糖化・炎症の 3 つは別々ではなく、互いに強め合う渦を作っています。1 つを下げると他にも良い影響が広がりやすく、これが、生活習慣の対策が「いろいろな面に同時に効く」ことの、分子レベルの理由になっています。

慢性炎症を測る目安 — hs-CRP

慢性炎症は症状が出にくいので、血液の検査で間接的に見ます。ここでは、その代表的な検査を紹介します。

慢性炎症のよく使われる目安が hs-CRP (高感度 CRP)hs-CRPhigh-sensitivity C-reactive protein / 高感度 CRP血液中の C 反応性タンパクを精度の高い方法で測る検査値。少し高い状態が長年続くと、心血管疾患などのリスクが上がる慢性炎症の代理指標。健康診断のオプションで測定できる。 です。

CRP (C 反応性タンパク) は、感染やケガがあると大きく上がる炎症のマーカーで、健康診断にもよく入っています。高感度 CRP は、その CRP をより精度の高い方法で測ったもので、症状のない人に見られる「ごくわずかな上がり」まで捉えられます。

  • 低リスク: 1.0 mg/L 未満
  • 中リスク: 1.0〜3.0 mg/L
  • 高リスク: 3.0 mg/L 超 (大きな感染などがない場合)

健康診断のオプションで測れて、慢性炎症のレベルをおおまかに知る手段として使われます。

関連トピック

LEVEL 1 以降では、慢性炎症を抑えるための具体的な取り組みを扱っています。

References

  1. Franceschi C, Garagnani P, Parini P, Giuliani C, Santoro A (2018). Inflammaging: a new immune-metabolic viewpoint for age-related diseases. Nature Reviews Endocrinology, 14(10), 576-590. doi:10.1038/s41574-018-0059-4
    総説根拠:
  2. López-Otín C, Blasco MA, Partridge L, Serrano M, Kroemer G (2023). Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186(2), 243-278. doi:10.1016/j.cell.2022.11.001
    総説根拠:

よくある質問

Q. 急性炎症と慢性炎症はどう違いますか?
A. 急性炎症は、ケガや感染への一時的な防御反応で、赤み・腫れ・熱・痛みといった分かりやすい症状が出ます。普通は数日〜数週間で収まります。慢性炎症はこれと違い、症状が出にくい弱いレベルで長年続く状態で、自覚しないまま血管・脳・関節などに少しずつダメージが蓄積していきます。
Q. 慢性炎症は症状なく進むのですか?
A. 多くの場合そうです。inflammaging は「症状が出にくいまま、弱いレベルで長年続く」性質を持つため、自覚症状からは見つけにくい状態です。代わりの目安として高感度 CRP (hs-CRP) があり、健康診断のオプションで測定できます。
Q. 「炎症」と聞くと体に悪いものというイメージですが、必要なものですか?
A. 炎症は本来、ケガや感染から体を守るために不可欠な仕組みです。問題は「強さ」と「持続時間」で、ケガが治ったあとに収まらず、低レベルでだらだら続く状態 (慢性炎症 = inflammaging) になると、加齢関連の病気のリスクを高めます。「急性炎症は味方、慢性炎症は敵」と整理するのが分かりやすい捉え方です。

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